幻想郷大騒動~三妖精奮闘戦記~⑪第11話
2018年4月。
異邦人互助会領 中島製作所の会議室にて
そこには薄暗い部屋に数十人の異邦人互助会の主な士官が詰め込んでいた。
話の内容は、ある議題であった。
「現在の戦況は?」
当主であるルージュという魔術師が話しを切り出す。
本題に入る前に状況説明という事である。
「現在、我々は八雲家と戦闘を続け、押されています。
戦力差は絶望的であり、現在我が勢力が生存できているのは、拠点である夢と現の境界の多重結界により、八雲家の軍勢を抑えているに過ぎません。
また、南には魔界神軍があり、去年までは我が勢力と敵対しており、
主家である最強妖精団に従属しなければ、領土である生命科学研究所を攻め取られていたと考えられます。」
参謀役であるレオナルドと呼ばれる人物が立ち、そして次々に報告をする。
「つまり…現在我が勢力が存在できているのは、1つの要塞と、後ろの大勢力のおかげ…という事か…」
だれともなくそんな言葉が聞こえてきた。
「そして、その後ろの大勢力から、今度は、
領内の軍の通行権ならびに我が軍の指揮権の一切をよこせ、とのことです」
レオナルドの言葉に、会議室はざわついた。
「我が勢力の状況を考えれば、臣従もやむなし、と思われますが」
レオナルドの発言に、そのざわめきに終止符が打たれる。
長い沈黙が続く。
「ロイエンタール将軍にお聞きしたいが…我が勢力の全戦力で、現在夢と現の境界を取り巻く八雲家の軍勢を退ける事は可能ですか?」
ルージュが口を開く。
「…不可能でしょう。現在境界を包囲している戦力は2万4千以上。それに対してこちらの戦力は1万を超える程度だ。
士官の質も問題でしょう。八雲家には八雲藍や八雲紫を筆頭に、マイン・カイザーを主にした旧銀河帝国の同僚達が包囲部隊に参加しているといわれています。
境界の内部の物資も、長くは持たないとの報告も入っております。もう一度いいますが、包囲部隊を退けることも、耐える事も不可能です。」
ロイエンタールの言葉に、その場の全員がうなだれる事となった。
2018年、5月。
最強妖精団は競輪毛玉の拠点を一つにまで追い込んでいた。前線開拓の為、従属になっている異邦人互助会に臣従せよと通告をした。
臣従となれば、その勢力の軍勢の指揮権を得る事ができ、石高ランキングにも影響するのである。
小勢力と化した異邦人互助会はこの通告を受理し、妖精団は支配下となった夢と現の境界拠点に取り付く八雲家の軍勢を追い払うべく、行動を起こす。
八雲家 境界攻略陣営
「何度言えば分かる?
あのヤンに率いられた倍以上の敵に、立ち向かう行為は無謀を通り越している事を」
作戦会議室で、卓上を叩く勢いの鋭い声が響く。
金色の髪に、その場の誰よりも装飾の多い軍服に身を包んでいるのは、
銀河帝国皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムであり、声の主もまた彼であった。
「ラインハルト殿、これは紫様の決定です」
それを制するように、鋭い目線をする八雲藍。
「貴方はこちらの指示通りに動いてくださればいいのです」
「…わかった。もはや何も言うまい。戦闘が始まれば、こちらも存分にベストを尽くそう。…それで良いな?」
しばらく藍との睨み合いをしていたが、あきらめたのか、踵を返して部屋を後にした。
「接近した後、スペルカードによる応戦の後、接近戦に持ち込む…どう思う、ファーレンハイト」
カツカツと音を立てて歩くすぐ斜め後ろには銀色の髪の黒い銀河帝国の軍服を着たアーダルベルト・フォン・ファーレンハイトが控えていた。
「倍する戦力に取れる戦術としては悪くはないと思われますが。しかし相手はヤン提督。紫様の指揮能力からすれば敵わない相手ではないですが、いささか相手が悪いですな…。一旦後方へ下がり、攻撃のチャンスを狙いたい所です」
「だろうな。…どうやら我が主の紫殿は、あちらが物量・質量ともに上だという事を知らぬようだ」
「閣下。それは…」
もしそんな事が他の誰かに漏れれば、何らかの批判がでるだろう。
「分かっておる。…全て私が悪いのだ。許せっ」
「閣下…」
ラインハルトの配下に着く苦しみが、ファーレンハルトには手に取るようにわかった。
だが翌日。紫軍は2万におよぶ戦力で周辺にて陣を敷くも、作戦は見事に失敗した。
最強妖精団はその倍以上の5万3千にもおよぶ軍勢にて攻め込んできたのだ。
総大将の八雲紫は、戦力の消耗を避けるべく、対峙した数分後に撤退を決意した。
かくして、異邦人互助会がどんなに戦力を集中しても勝てなかった八雲家の軍勢を小指すら使わずに撤退させる事に成功した妖精団はさらなる進撃を開始する事となる。

境界内の会議室。
「ヤン・ウェンリー提督。お会いできて光栄です」
異邦人互助会の所有拠点であるが、半ば主家である妖精団の支配下に入った夢と現の境界の会議室に、銀河帝国の士官服を着込んだ男性がそう言ってヤンに握手を交わす。
「オスカー・フォン・ロイエンタール総長殿。こちらもお会いできて光栄です」
「私が統帥本部総長であった帝国は、この世界には既に亡くなっております。その呼び方は止してください」
ヤンの言葉に静かに微笑むとそう言って否定した。
異邦人互助会が臣従したので、
客将として一人自陣に迎える事ができたので、誰にするかと妖精団の中で話し合った訳だが、当初
純粋な武力なら
地竜という生命技術研究所にて発明された巨大な亀が有力視されていたが、ヤンがロイエンタールの名前を見つけ昔を思い出し、どういった昔話があるの?と妖精たちに言われたので、ありのままヤンのロイエンタールについての評価を話した為、
急遽ロイエンタールが客将として迎えられることとなった。 「ねぇあれがヤンさんを苦しめた敵の一人?」
サニーミルクがそう小声で言う。
「いかにも敵陣営って面だね」
ルナチャイルドがそう続く。
「能力値的には武7政7智6野統7…性能的には霊夢がオール7だから大分高性能ね」
レミリアもそれに続く。
「あれで部下の一人って言うんだから、大将はどんな人なんだろう…」
ルナチャが思いにふける。
「評価的に、とある王朝の三代目の跡取りとして君臨するとすれば理想的な人物とあるわね」
パチュリーは書類を手に分析するように言う。
「なに読んでんのよ」
レミリアはたずねる。
「ウィキペディアの印刷物」ドヤ顔で答えるパチュリー。そんなメタ話して大丈夫か?と言いたげな顔をするレミリア。
「…それでヤン提督、あの方達は?」
ロイエンタールは、会議室の端っこでなにやら雑談をしているサニー達が気になっていたようだった。
「僕の一応の上司と、同僚達…って事でいいかな」
ヤンは頭を掻きながら申し訳なさそうな顔と声で言う。
はぁ~とロイエンタールは深く重いため息を吐く。
どうも、彼ら銀河帝国の将兵達には、この幻想郷の深刻な男性不足から出てきてる少女臭とか、お遊び感覚での弾幕ごっこなどどうも馴染めてないようだ。
しかもこの異変で適用されているルールでは勢力に必ず当主がいるのだが、その当主ですらいつもの遊び仲間のリーダー的な感覚しか持ってない人たちが多い。それどころか、この異変を遊びだと思っているのが普通と来ている。
今まで艦隊を率いて戦い、そして仲間でありながら後方で政治を操る者達に振り回されるような世界にいたので、どうも調子が狂って仕方が無いのだ。
「まぁそんなこんなでよろしくお願いします~。あ、私
紅美鈴です。
ホン・メイリンです。
くれないみすずじゃないですよ~変換の時に已む無く
くれないみすずって変換していますけど」
と、美鈴はどこにいたかは不明であるが、胸の大きさでは考えられない程の軽快な動作で一番に握手を交わすようにシャシャリ出てきた。
「……よろしく」
ロイエンタールは一瞬だが眉を動かすと、そのまま握手を交わす。
その後、一通りの同僚の挨拶を終えると、作戦会議が始まるが、ほんの数分で終わった。
『待ち伏せとかそういう戦術単位でヤバイ事は気をつけて、あとは勢いで行こう』というきわめて単純な事で終わった。
なにせ敵は後方陣地にまで予備役を集中させており、急な撤退はできずに篭城を強いられる事となり、そして篭城すれば万単位の軍勢を一月持たせる程の食料はないと分かっていたのだったからだ。

「(なんとも幼稚な…)」
ロイエンタールは会議終了後、そんな心境であった。
まるで幼稚園の遠足でどこへ行くかを決めるかのような取り決めであり、馬鹿らしくもあった。
「ロイエンタール将軍」
ふいに自分の名前を呼ばれ、振り返るロイエンタール。
「レミリア…殿でしたかな」
背の高い侍女長である十六夜咲夜を従え、子供にしか見えない少女が自信ありげな表情で立っている。
「会議中随分とお暇だったようだから、声をかけてみたが…やはりここでは調子が狂うという事かな?」
レミリアはそんな事を言ってロイエンタールに近づく。
「無理も無い…ここは幻想郷の中で最もまとまりのない勢力なのだから」
レミリアはそう言うと、ピタリとロイエンタールの目の前で立ち止まる。
「…何か?」
どうもレミリアの視線が、奇妙な枝をした巨木を見るような幼い子供のような目だったので、そう尋ねた。
「貴殿は昔、女性関係で酷い目にあったかな?」
「」
一瞬、呼吸が止まる。
「ああ、すまない。貴殿の眼には闇が見える。そして女性を見た時の目はさらに深くなった…。と思ったのだが、思い違いかな?」
レミリアはその一瞬を見逃さずに、ニヤリと悪魔的な笑みを零してスラスラと言葉を並べる。
「…」
ロイエンタールは何とも言えない顔で金銀妖瞳の瞳でレミリアを見つめる。
レミリア・スカーレットなる少女は齢500を超える吸血鬼と聞いたが、なるほど、確かにこれは悪魔だ。静かにだが、レミリアの幼児特有の笑みにも似たその悪魔の微笑みを見つめてロイエンタールはそう考えていた。
「どうやら貴殿の闇は思っていたより深いようだな」
レミリアはふふんと笑うことを一区切りつけると、改めてニヤリと微笑む。
「すまなかった。どうもウチの部下の くれないみすず がシャシャリ出た時の顔が妙に印象深くてな」
こちらの笑みはなんとも素直そうな純粋な笑みで、同時に済まなそうな顔をしていた。
「私のことはお嬢さんとでも言って欲しい。まぁ今宵は貴殿の歓迎会だ。そう機嫌を悪くしないで欲しい」
すると彼女はそう言いながら、許しを請うような顔をして言う。
「…」
しばらく気を張っていたロイエンタールだったが、レミリアのそんな表情を見てどうやら踏ん切りがついたように「ふ」と笑みを浮かべる。
「わかりました。今宵はどうやら酔って寝るしかなさそうですな」
そう言ったロイエンタールは、どこか晴れ晴れとした表情であった。
「ところでレミリア・フロイライン」
「どうした?」
「フロイラインの侍女長の具合がよろしくなさそうなのだが…」
「べ、別に大丈夫ですわ。お気になさらず
(わ、私ったら第三者がいるのにも関わらずお嬢様のかわいい姿に思わず鼻血が出そうに…ああ、でも許しを請うようなあの顔…嗚呼…タマンネ)」
「ふっ、お気になさらず。このメイド長はいつもこんな感じですから」
にこやかに答えるレミリア。
レミリアはロイエンタールに宴会場までの案内をしようとするが、そのときに背中の羽がパタパタと動かしているのを見て、
盛大に鼻血をぶちまけたのは秘密である。
ちなみに、ロイエンタールは右目が黒で左目が青色の
金銀妖瞳であるが、これはロイエンタールの母が浮気をしてしまったので愛人がバレるという事で殺されかけるという辛い過去があり、その後結局母は自殺。父親には詰られて育ったため、女性に強い不信感を抱いている。
だが一般的には女癖が悪い漁色家(ぎょしょくか)として知られているが、これは女性側がロイエンタールの美形に釣られて一方的に迫られて、関係を持っては捨てる事を繰り返している訳である。
なお、ヤンの部下でも女癖が悪い漁色家が二名ほどいるが、そちらはいわゆるナンパで引っ掛ける手口で、その際にはお互い遊びと割り切って関係を結んでいるので注意。
「…と、
ウィキペディアから貼り付けてる間に、さっさと止血なさい」
「うう…ごめんな・・・ごふっ!」
「ちょ咲夜さん!それ以上思い出さないでください!大量出血で死んじゃいますよ!」
パチュリーはやれやれだわ…と呟き、咲夜は自分の血液で池を作り、それを紅美鈴が止血する為にわたわたとしている。これが大体の流れであった。
そして
2018年9月。
夢と現の境界地域の八雲軍は完全に撤退し、戦場を夢と幻の境界地域へと移していた。
いや、既に戦場と呼ぶには一方的な戦いであった。
北からは
岡崎家と
アルビオン王国へ従属した
西行寺家と西行妖に攻められ、南から尋常でない速度で進撃を続ける
風見家が迫っている。

このまま続ければ、紫家を併合することも可能であったが、最強妖精団上層部には別の思惑があった。
その思惑とは…?
続く
テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学